マイアミオープンの会場で記者会見に臨んだラファエル・ナダルが、「今こそテニス界にルール変更が必要」だと提言しました。その真意とは?近年、テニス界は選手の技術とフィジカルの向上、ラケットなどの用具の進化により、大きな変化を遂げました。
🎾本記事のサマリー
1. 2000年代は用具とフィジカル向上により、試合時間が大幅に長くなった

フェデラーとは対照的に、フットワーク、フィジカルを極限まで極めたナダルのパワーテニス
2000年中盤頃より、トップ選手達のフィジカル、特にフットワーク技術の向上により、過去のようなサービスエースやストロークウィナーが激減しました。ラケット素材がカーボンであった時代の頃までは、攻撃テニスと言えばサーブ&ボレーが主流でしたが、現在サーブ&ボレーを多用するスタイルは、”クラシックなプレー”と形容されるほど、攻撃と守備を兼ねたストローク主体のテニスの時代となりました。特に、男子プロ選手のシングルスはストローク全盛の時代です。それほど選手達のレベルが一気に上がり、見ている観客たちにとっては一層エキサイティングな試合へとなっています。
また、ラケットに新素材が使われ、その製法が進化し、ラケットの性能が大幅に向上してきました。反発力が上がり、ボールのスピードが上がり、スピンがかかりやすくなり、以前より強力なショットを打つことが可能になりました。このこともストローカー全盛の時代の大きな理由です。
しかし、その半面で試合時間が非常に長くなったことも事実です。時として、試合は5時間を超えるような長丁場になることも。商業的な面で考えると、TVの放映権を売りたい大会側としてもあまりに長い試合は商品として売りにくいでしょう。一方で、番組を買う各国のTV局も枠内に収まりきれないテニスの試合はある意味でリスクが高い商品なのです。これが日本の民放でテニスの放映が少ない理由です。
2. 2014年頃より、時間を奪い合う早い展開のテニスが主流に

全米オープン2014で、ベースライン内でゲームを組み立てるテニスで準優勝した錦織圭
2014年頃から、男子テニスはある選手の台頭により一つの転換期を迎えます。それは日本の錦織圭です。全米オープンで見せた彼のテニスは、ベースラインの内側にどんどん入って行き、早いタイミングでボールを捉え、コートを左右前後に立体的に展開する全く新しいスタイルでした。世界№1のノバク・ジョコビッチを破った試合はテニス界に大きなインパクトを残しました。
この頃より、ベースラインから強烈なエッグボールを打ち、球足が遅いクレーコートで抜群の強さを誇っていたナダルが、急に調子を落とし勝てなくなり、一時はランキングTOP10圏外目前まで後退した事は記憶に新しいです。現在はより、ベースラインの中に入って、タイミングを早めるテニスへと対応を急いでいますが、まだかつての輝きを取り戻せてはいません。
一方で、史上最高のオールラウンダーと称されるロジャー・フェデラーは、この潮流の変化に完璧に対応し、サーブ&ボレーを多様し、ダウンザラインからのネットプレーなど超高速テニスの体現者となっています。現在最強の王者ジョコビッチですら、高速サーフェスではフェデラーに屈するシーンも多く見られます。その他に、この傾向を一層推し進めているのは、ラオニッチやJ・イズナーなど2M近い長身を活かしたビッグサーバーの台頭や、ラケットの進化より以前に比べてボールのスピードや威力が増しているなどの要因も無視できません。
このように、現代のテニスは選手の技術の向上、フェジカルの向上、そしてラケットなど用具の向上によって、早い試合展開が主流となり、一ポイントの展開が短くなりつつあります。
3. 今こそ!早い試合展開を危惧してのルール変更が必要

マイアミオープン2016のインタビューでルール変更の提言したナダル
ナダルはマイアミオープンの会見で、近年のラケットなど用具の進化でスピードやパワーが技術や戦術の優位に立った場合、将来のテニス界は大きな問題に直面することになると警告を発しました。最新技術のラケットを使う長身の選手や屈強な選手が、1つのポイントやゲーム全体を素早くこなすことはエンターテイメントの観点からは問題だと語り、今後の傾向の加速を見越して、テニスの人気を守るためにもルール変更が必要だと語りまた。
「現在テニスは、あらゆる側面から改善が必要とされている。今日の選手は過去に比べてより長身な選手が多い。ラケットも改良され、以前より強力なショットが打てる。そういった変化の中で、ネットがどれくらいの高さであるとか、ルールが変わっていないというのも事実だ。1ポイントの展開がより激しく、長くなればなるほど観客はエキサイトする。しかし、そんな展開が少なることは、テニス界にとっての問題だ。」-ナダル
「テニスは長きに渡って素晴らしい成功を収めてきたスポーツが、一方で今後の繁栄のために未来を予測して手を打っていく必要がある。今の僕らの現役世代のことではなくて、今後のテニス界を担う世代についてだよ。観客はエキサイティングな展開や、素晴らしいラリーを好む。強烈なサーブが1本、ショットが1本だけのすごい試合というのは記憶に残らないからね。観客が一番記憶する試合は、信じられないポイントのある長時間の試合だ。1本のサーブや1本のショットだけに称賛が送られたり、感情が出たりすることはないだろう。」-ナダル
まとめ
かつて、ATPプレイヤー・カウンシルの副委員長として、フェデラーと共にテニス界隆盛の為に裏方としても情熱を注いだナダル。残念ながら、『2年間に渡るランキング制度』につて当時の委員長のフェデラーと意見が分かれたことが原因で辞任しました。
ナダルやフェデラーといった、真のトップ選手は自身のプレーだけではなく、テニス界全体の為にプレーしているのです。それだけ、テニスという競技を愛し、愛されています。
ナダルの全てがここに!25歳のナダル自身が書いた自伝
「世界中でナダルが熱狂的に支持されているのは、彼がマッケンローのように情熱的であるのと同時に、冷血な殺し屋のボルグのように自制的だからだ」(本文より)