2016年の全仏オープンは”順当に勝ちあがる常勝組”と”波乱に飲まれた早期敗退組”の明暗がはっくりと別れた大会です。
錦織圭は順当にいけば、準々決勝でアンディ・マレー、準決勝でスタン・ワウリンカ、そして決勝でノバク・ジョコビッチと対戦といったビューティフルストーリーを期待していたファンが多かったと思います。
結果から言えば、4回戦で錦織圭はフランスのリシャール・ガスケに6-4, 6-2, 4-6, 6-2で破れ、2年連続のベスト8を逃しました。その意味とは…
錦織がガスケに勝てなかった意味

世界最高峰と評されるバックハンドを打つ錦織
敗因は諸説考えられるが…
テニスの試合には天候、時勢、自分の調子、相手の調子などの要因が勝敗に関係してきます
天候:「錦織は完全アウェーの中で序盤攻め込んで第1セットをゲームカウント4-2とリードしたが、第7ゲームのデュースの時点で雨により一時中断。再開後、このゲームをブレークされた錦織はミスを連発して4ゲーム連取を許し、第1セットを落とす。さらに第2セットも落とし、2セットダウンの崖っぷちに…。」
時勢:「勢いに関して言えば、錦織は全仏時点で今季グランドスラム全豪OPでベスト8、ATP250メンフィスで3連覇、ATP500バルセロナで3連覇を逃すも準優勝、マスターズ1000マイアミで準優勝、BNLイタリア国際でベスト4というTOP選手として安定した成績を残してきました。」
錦織の調子:「まあまあ」
ガスケの調子:「好調」
「負けない強さ」と「勝つ強さ」とは?
色々と原因は考えられるのですが、最も本質的部分は「負けない強さ」と「勝つ強さ」のバランスだと思います。世界6位の錦織圭は実力があり、トップレベルの強さを誇ります。
現在の男子テニス会でジョコビッチとマレーの「負けない強さ」は突出しているます。たとえ、どんなに己の調子が悪くても、相手が絶好調だったとしても、苦しんだ末に僅差でも絶対に勝ちきります。これは、ゲームやセット単位じゃなく、試合単位のディフェンス能力と言い換えることができるでしょう。だから、この2選手は2016年現在、殆どすべてのビッグトーナメントで1,2争いを繰り広げているのです。
一方で「勝つ強さ」はすべてのトップ10選手ともなれば、おしなべて相当のものがあるのですが。ジョコビッチ、マレーに加えて、フェデラーやワウリンカなどが優れています。特にグランドスラム、そしてマスターズ1000、ATPツアーファイナルズなどの大舞台に向けて心身ともに自身のテニスをピークに持っていき、準々決勝、準決勝と大切な試合、試合中の絶対に落とせないポイントやゲームなどギアをどんどん上げていき、勝ち抜いていきます。そして、疲れがピークに達しているはずの決勝でハイパフォーマンスを発揮し、素晴らしい試合を繰り広げ、タイトルを獲得します。
たられば論…
世界6位の錦織が、未だGS、MSで優勝できず、TOP3以上の世界ランキングに入りこめない理由は技術や体力というより、ここにあると考えています。”負けない強さ”がもっとあれば、今回全仏4回戦で雨に泣かされても、ガスケに負けることはなかったでしょう。直近の2戦は勝ち越していたわけですし。昨年2015年の全仏準々決勝のジョー=ウィルフリード・ツォンガ戦も同様です。(あの時、勝っていればベスト4!勝てましたね…)
また、”勝つ強さ”がもっとあれば、2014年の全米決勝でマリン・チリッチに敗れることなく、アジア人男子初のグランドスラムタイトルを手にしていたはずです。
試合後の錦織のコメントから見える自信

試合後に苦々しい表情を見せる錦織
言い訳がましい敗因分析より”決勝”を見据えていた部分に注目
「晴れていれば、もう少し早い展開が出来た。そこ(雨)の調整が出来ていなかったことが敗因」
「ボールが重かったことが1番の理由。ミスが多かった。悔しいです」
「ガスケのディフェンスが良かった。主導権を握られた」
「ベスト4、決勝にいける可能性も感じていた。もったいないというか悔しいです。」
おそらく、錦織圭自身が過去の全豪、全仏、全英、全米のグランドスラムで、決勝までの道のり見据えて臨んだ大会は無かったと思います。日本メディアはすぐに優勝の2文字で煽りますが、現在の男子テニス界のBIG4(いや、ジョコのBIG1)状態を見れば、逆に優勝がどれだけ難しいことなのかを痛感します。
「(マレーを破って)ベスト4に、(ワウリンカを破って)決勝にいける可能性を感じていた」
しかし、そんな中で今回は異なりました。フェデラーの欠場、ナダルの3回戦棄権があったにせよ、錦織はガスケとの試合後に「(マレーを破って)ベスト4に、(ワウリンカを破って)決勝にいける可能性を感じていた」と語っています。この言葉から伺える錦織の今季のレベルアップとTOP5選手との対戦経験から”もっとやれる確かな実感”が湧いてきているのだと思います。
今季のトーナメント成績だけではなく、ことクレーシーズンの試合内容を見れば、客観的にも錦織の確かなレベルアップと上位4選手への肉薄が感じられます。4月のデビスカップ(国別対抗戦)のイギリス戦では、マレー相手にフルセットまでもつれた大接戦でした。そして、5月のマスターズ1000のBNLイタリア国際、準決勝ではジョコビッチ相手に死闘を演じ、勝利まであと一歩でした。
確かな経験、実績、そして手に感じる実感が錦織に自信となり、強気な発言となって現れています。
“芝”と”リオ五輪”と”ハード”で一皮むけるか

2014年全米OP準決勝でジョコビッチに勝利した時の錦織
2016年下半期は、6月のウィンブルドン、10月全米オープンに加えて、リオ五輪がといったビグトーナメントが控えており、今後の錦織の活躍に期待がかかります。
「負けない強さ」と「勝つ強さ」に更に磨きをかけて、一皮剥けることができるか。
もう一度、あの2014年全豪ジョコビッチ戦で見せた”ブレークスルー”を見せて(魅せて)欲しいですね。
頑張れ、日本のエース。
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