女子テニスでグランドスラム5度の優勝を誇る元世界ランク1位の「ロシアの妖精」ことマリア・シャラポワ(ロシア)から重大発表がありました。引退会見か?と思いきや…
3月7日、アメリカのロサンゼルスで記者会見を開き、今年1月の全豪オープン後のドーピング検査で陽性反応だったことを明らかにしました。
ロシアの妖精が、ロシアの陽性に…
シャラポワは健康のために10年前から服用しているメルドニウムという薬物が検査で陽性反応が出たと話しています。メルドニウムは今年から禁止薬物で、シャラポワはそれが禁止されていたことを気付かなかったと主張しています。
【追記4/14】詳しく>>「シャラポワ問題に新展開!一転してメルドニウムが容認に?処分取消の可能性。」
🎾本記事のサマリー
1. マリア・シャラポワ
ロシア出身の現役女子プロテニス選手。これまでにWTAツアーでシングルス29勝、ダブルス3勝を挙げる。自己最高世界ランキングはシングルス1位。史上10人目の生涯グランドスラム達成者。グランドスラム優勝5回,準優勝5回。2004年WTAツアー選手権優勝。ロンドンオリンピック銀メダリスト。テニス界屈指の美人選手であり、コート外ではモデルとしても活躍する。通称「ロシアの妖精」。 -tennisfan ジョコビッチのモノマネ集より
シャラポワはその華やかなルックスとは裏腹に、幼少より苦労をして世界一まで上り詰めた苦労人です。人一倍勝利への欲が強く、薬物とはかけはなれたクリーンなイメージのアスリートとして大人気でした。
なぜ?シャラポワがメルドニウムを服用した経緯
2016年1月1日から「メルドニウム」が禁止されていることを知らなかったと語っています。
10年前から健康上の問題(糖尿病家系)のために服用していた訳ですが「ミルドロネート(販売名)」として服用していたが、実際は「メルドニウム(一般名・薬物名)」だったわけです。
疑惑1:近年のランキング後退…
28歳の若さながら全盛期の世界1位に比べると、現在のランクは7位とやや後退しています。その訳もあってか、故意のドーピング疑惑が一層信憑性を帯びています。
疑惑2:アメリカでは禁止薬物で医者に処方されない
シャラポワ自身はロシア出身ですが、現在はアメリカ在住です。メルドニウムはアメリカでは販売されておらず、ロシア圏でのみ医薬品として販売されています。アメリカで常用的にドクターから処方されることはあり得ないのです。FDAが認可していません。
疑惑3:本人もスタッフも一流なのに..
トップアスリートには必ずチームドクターと有能なマネジメントチームがシャラポワ陣営にいるわけです。年始の発表がされた時に、新たにリストに載っ薬の一般名(成分名)と常用している薬を確認して細かくチェックするのが当然でしょう。
2. メルドニウムの薬効と使用現状について
メルドニウムは虚血性心疾患に対する治療薬(抗虚血薬)です。現在はラトビアの製薬会社のGrindeksで生産されています。日本やアメリカでは医薬品として認可がおりていません。
2-1. メルドニウムの薬効は心臓保護
メルドニウムはホルモン調節薬および代謝調節薬に分類され、体液性免疫の活性化や心臓保護の効果があります。もともとは心不全,狭心症,心筋梗塞のための治療薬で,心筋の収縮力を高める効果があります。
2-2. メルドニウムのドーピング効果
服用すると持久力が向上と体力回復に効果があると言われています。体内に酸素を行き渡らせることにより、身体能力が一時的に向上するメカニズムです。
2-3. ロシア・旧ロシア圏では広く使用されている
現在メルドニウムはラトビア,リトアニア、ロシア,ウクライナ,モルドバ,ベラルーシ,アゼルバイジャン,アルメニアで医薬品として許認可され使用されていますが、日本の厚生労働省やアメリカの食品医薬品局(FDA)では認可されていません。
特に、医薬品として認可されているロシアでは広く使用されており、アスリートのドーピング検出率が高いことが指摘されています。
3. 世界アンチ・ドーピング規程 国際基準(The World Anti-Doping Code)
世界アンチ・ドーピング規程 国際基準(PDF 日本語)よりメルドニウムに関して記載された箇所を抜粋して紹介します。
3-1. 2016年の禁止物質に新たに追加された
メルドニウムは今年から新たに禁止薬物に指定されました。理由は過去に、競技能力向上の目的で使用されたことがあったからです。
3-2. メルドニウムは禁止薬物と明記
S4. ホルモン調節薬および代謝調節薬 以下のホルモン調節薬および代謝調節薬は禁止される:
1. アロマターゼ阻害薬としては、以下の物質があるが、これらに限定するもので はない:
4-アンドロステン-3, 6, 17-トリオン(6-オキソ);
アミノグルテチミド;
アナストロゾール;
アンドロスタ-1, 4, 6-トリエン-3, 17-ジオン(アンドロスタトリエンジオン); エキセメスタン;ホルメスタン; レトロゾール; テストラクトン.
2. 選択的エストロゲン受容体調節薬(SERMs)としては、以下の物質があるが、こ れらに限定するものではない:
ラロキシフェン; タモキシフェン; トレミフェン.
3. その他の抗エストロゲン作用を有する薬物としては、以下の物質があるが、こ れらに限定するものではない:
クロミフェン; シクロフェニル; フルベストラント.
4. ミオスタチン機能を修飾する薬物としては、以下の物質があるが、これらに限 定するものではない:ミオスタチン阻害薬
5. 代謝調節薬:
- 5.1 AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化薬(AICAR 等);ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)作働薬(GW1516等);
- 5.2 インスリン類およびインスリン模倣物質;
- 5.3 メルドニウム;
- 5.4 トリメタジジン
4. 過去にドーピング違反を犯したアスリートとその処分
4-1. テニス:マリン・チリッチ(クロアチア)
2013年5月のBMWオープンでのドーピング 検査でWADAが禁止薬物と認定する中枢神経興奮成分ニケタミドが検出されました。そして9月に2014年1月末まで9ヶ月の出場停止処分を受けています。
「問題になっている成分は、フランスの薬局で買ったブドウ糖の錠剤に入ってたものです。私は知りませんでしたが、このブドウ糖剤には禁止成分が含まれていたのです」とチリッチは声明を通して弁明しています。
4-2. テニス:アンドレ・アガシ(アメリカ)
アガシは、引退後に現役時代97年ににWADAの禁止物質及び禁止方法のリストに入っている覚醒剤(メタンフェタミン)を使用していたことを自叙伝で告白しています。当時、アガシは処分を避けるためにATPに虚偽の証言をしたことも認めています。禁止されている興奮剤の陽性反応が検出されたことを告げられたアガシは、興奮剤は偶然摂取したもので、酌量措置を求める内容の書簡をATPに送り、ATPは処分を見送っています。
4-3. 自転車競技:エドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア)
自転車競技でエドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ)がメルドニウム陽性反応が出て、45日間出場停止となっています。UCI(国際自転車競技連盟)は、2月5日、のサンプルから禁止薬物メルドニウムの陽性反応が検出されたと発表。12ヶ月のうちに2件目の陽性となったカチューシャには最長で45日間にわたってレース出場停止処分が与えらました。
4-4. マルチナ・ヒンギス(スイス)
2002年にウィンブルドンで行ったドーピングテストのAサンプルでコカインが検出され、その後検査されたBサンプルも陽性反応を示した。ITFから処分を下される前にヒンギスは二度目の引退を発表し表舞台から退きました(のちに下された処分は2年間出場停止)。
4-5. リシャール・ガスケ(フランス)
2009年にガスケがドーピング検査で陽性と判明。原因はコカインです。ガスケはバーでコカイン常習者の女性とキスをしたことでコカインが移り、直後のドーピング検査で陽性となってしまったと釈明しました。ガスケの処分は暫定的にとられた2か月半の出場停止処分となりました。
4-6. ウェイン・オディスニク(アメリカ)
2015年に2度目のドーピング違反のため15年の出場停止処分という事実上の引退勧告が下されました。一度目は成長ホルモン剤を所持していたことで、ITFは当初、2年間の出場停止処分を下したが、前向きに検査官に協力したとして、約半分に減刑されました。
5. シャラポアの処分は?引退なのか?
現在、女子プロテニス協会のWTAからの処分は決まっていません。最近のチリッチの例を考えると1年前後の出場停止処分となるのではないでしょうか?元世界No.1のカプリアティなど引退すべきと厳しい意見をもっている関係者もいます。
「このような形でキャリアを終えたくはない。復帰するチャンスを願っている。責任は私にある。全責任を取らなければならない。」
「大きな過ちを犯しました。ファンの皆さんを、そして、私が4歳の頃から続け、愛してやまないこのスポーツを失望させてしまいました」
「これによって何らかの影響が出ることは分かっています。こんな形でキャリアを終えたくはない。もう一度プレーをするチャンスが与えられることを、心の底から願っています」—シャラポワ
今年1月の全豪オープン準々決勝でS・ウィリアムズ(アメリカ)に敗れてから公式戦のコートに立っていないシャラポワは、これまでキャリア通算35度の優勝を誇っています。
ロシアと言えば2015年に陸上界の組織的なドーピングが発覚し、国際陸連からロシア陸連が 資格停止処分を受けています。今回のシャラポワもロシアの選手だけに、話題は多きくなるばかりです。
5-1. 国際テニス連盟から出場停止処分が決定
国際テニス連盟はシャラポワ選手について、3月12日から暫定的な出場資格停止処分を科すと発表しています。今年は8月にリオオリンピックがあります。しかし、シャラポワの五輪出場は絶望的でしょう。前回のロンドン五輪では銀メダルだっただけにリオでは金メダルを獲ってキャリアゴールデンスラムを狙っていたことでしょう。残念です。
5-2. スポンサード契約各社への影響
シャラポワは女子テニス界で最も稼ぐアスリートです。2015年のスポンサー契約収入(賞金とは別)は世界12位の28億円で、フェデラー、ジョコビッチ、ナダルに次いで男女合わせたテニス界で堂々4位でした。彼女の実績・クリーンさ・美貌が世界有数のビッグスポンサーを広告塔として引きつけています。
- ナイキ:米スポーツ用品大手のナイキは、事実関係が明らかになるまで契約を一時中断すると発表。「我々はマリア・シャラポワのニュースを受けて、悲しむと共に驚きを隠せずにいる。調査が行われている間は、マリアとの関係を停止する決断を下した。今後も状況を検証していこうと考えている。」
- タグホイヤー:スイスの時計メーカーのタグホイヤーは、締結している契約の更新はしないと発表。「現在の状況を見る限り、我々スイスの時計ブランドは交渉をとりやめることにした。そして、シャラポワとの契約の更新を見送る決断を下した。
- ポルシェ:「シャラポワと予定していたイベントなどは延期する方法を選択する。」とした声明を発表しており、それは「更なる詳細が明らかになるまでで、その後我々で状況を分析する。」
- エビアン:未定
- コールハーン:未定
- サムスン:未定
- 国連開発計画(UNDP):親善大使としての役割と、調査が行われている期間中に予定していた活動を一時停止。
- ヘッド:スポンサー契約を継続する決断「彼女が見せた、自身の過失を公表し、認めたことへの誠実さと勇気は称賛に値する。マリアは過ちを犯してしまったかもしれないが、我々は彼女との契約を継続する。」
5-3. 他のトップテニス選手のコメント
- J・カプリアティ(アメリカ)元世界1位「どんなものであれ、違反行為を犯す選択肢はないし、自分のキャリアを失わなければならない。タオルを投げ入れて苦しむしかない。」
- ビーナス・ウィリアムズ(アメリカ)「多くの人が彼女(シャラポワ)があのように正直に公の場に姿を現したことに対しては嬉しく思っていたはず。そして、彼女は自分がしたことや年末に届いたメールのリストを見なかったことなど、全てを正直に語る勇気を多大に見せた。」「ただ責任を取るということ。そして、それは彼女がしたいと思っており、する準備も出来ていることを認めている。そんな状況に陥ってしまった人に対して、最善のことを願うだけ。」
- C・ウォズニアキ(デンマーク)「どんな薬を服用する時も、常に3回も4回もチェックをする。なぜなら、時には咳止めの飴やスプレー式鼻薬でさえ禁止薬物が含まれていることもあるから。」「アスリートとしては、本当に禁止されていないものかを毎回毎回確認しているはずだと思っている。」
- 世界アンチ・ドーピング機構(WADA)のD・パウンド元会長「あそこまでのレベルのアスリートはテストがあることを認識すべきだし、自身が服用している薬がリストにないか確認すべきでもある。そしてそれを見逃してしまったのは未必の故意だった。」
「収集した情報では、彼女(シャラポワ)は事前に注意されていた。WADAからも出版物が公にされていたが、彼女はそれに注意を払わなかった。テニス協会からも幾つかの警告が出されていたが、明らかに読んでいなかった。」
- J・エナン(ベルギー)元世界1位「「我々は多かれ少なかれ、今回のケースに悲しみと驚きを感じていると思う。もちろん、テニスというスポーツにも良い影響は与えない。」
- M・サフィン(ロシア)元世界1位「(故意の薬物摂取では無い事を)そう信じたい。」
- A・マレー(イギリス)「必要もないのに、処方箋が必要な薬をただそれが禁止薬物ではないから摂取しているというのは間違っていると思う。そのような薬が、本来の目的ではなく摂取されているのは、必要なことではなく、パフォーマンスを高める効果を期待して使用しているだけ。」「パフォーマンスを高めるであろう薬物を摂取しているのであれば、そして同時に検査で陽性反応が出てしまったら、処分が下されるのは当然のこと。」
- R・ナダル(スペイン)「スポーツ界全体にとって最悪なこと。特にテニスにとっては尚更だ。」「このような事件が起きるのは想像しがたいけど、常に間違いというものは存在している。誰でも間違いはある。これはマリア(シャラポワ)の単なる過失で、故意にやったことではないと信じたい。単なる不注意だという可能性はいつでもある。ルールはルール。これから彼女はその償いをしなければならない。」
- 錦織圭(日本)「シャラポワが故意にやったとは思えない」「50位、60位の選手だったら故意にやってるかもしれないって考えられなくもないけど、シャラポワのレベルで故意にやったとは思えない。僕自身、トップ10になって検査の回数が異常に増えたし、その中で自分からやろうなんて考えられないので」
- R・フェデラー(スイス):「とてもがっかりさせられたニュースとしか言えない」「本当に驚いたし、あの会見は引退発表か何かだろうと思っていた。それと同時に、有名選手であっても摘発できるように、システムがきちんと機能していることも示された」
6. 一転して新展開!メルドニム容認の可能性
4/13。WADAが新たな見解を発表しました。その内容は、ルール改正後にメルドニム陽性反応があった選手でも、一定以下の検出量の場合は容認される可能性があるとしました。シャラポワの処分が取り消される可能性が浮上しました。
詳しく>>「シャラポワ問題に新展開!一転してメルドニウムが容認に?処分取消の可能性。」
7. ITFは2年間の資格停止処分を科した
シャラポワ処分期間(資格停止期間)は2018年1月25日までで、当然8月のリオデジャネイロ五輪出場は絶望的になり、引退の可能性も浮上してきました。
フェデラーも2年間のシャラポワが資格停止を言い渡されたことについて、同情の余地はないと語った。「意図的か否かは関係ない。どちらも変わりないからね。自分の体に入れるものについては知っておくべきだし、どういう影響があるのか完全に理解しておく必要がある。そうでなければ、とんでもないことになるだろう。もちろん、彼女には異議を申し立てる権利がある。ただ、自分は絶対に許せない」
また、USATODAY紙は「ITFの一連の調査で、彼女の言い分は否定された。悲しいことだが、彼女は世界的インチキ選手といわざるをえない」と断罪する始末で風あたりが一層厳しくなりました。
WADAは3月1日以前の検査で検出量が微量だった選手は処分しないとの新基準を4月に発表していましたが、今回のシャワポワの一件はそれには該当しないとの判断。シャラポワ自身スポーツ仲裁裁判所に提訴する意向を表明していますが、すでに一部情状をくみとり最大4年の処分は免れているので、軽減は厳しい見通しと言えます。
【シャラポワファンは残念です..】